フキコ
ふえ~、ただいま~。

エイジ
うわっ、なんだよその大荷物!

毛糸に、お菓子作りの材料だよ。
バレンタインデーまでにセーター編んで、チョコレートも作らなきゃ!


何だよフキコ、好きな人でもできたのか?

残念ながら私じゃありませーん。
友達に頼まれたの。その子、あんまり器用じゃなくてさ。
「こんなこと、フキコちゃんにしか頼めなくって……」なーんて言われたら、そりゃあ張り切っちゃうよね!

そういえばこの前、遅くまで机に向かってたから珍しく勉強してるのかと思ったけど、
もしかしてそれも……?


そうそう。ラブレター書いてたの。
その子、あんまり字がうまい方じゃないんだよね。
「フキコちゃんの字、すっごくきれいだから~」って言われたら、そりゃあねぇ!


そんなの、ただおだてられて調子に乗ってるだけじゃないか!


いいの! 大親友のためなんだもん! 
私がなんとか頑張って、その子の恋が叶ったら、私すっごく嬉しいもん! 
もー、お兄ちゃん、邪魔しないでよね!

ふーん、そうか。でもよく考えてみろよ。
他人に作らせたものを「心を込めたプレゼント」だって言えるのか?

ううっ、それは……


人に任せっきりにして、自分では何もしないで想いを伝えようなんて、おかしいと思わないのか?


私もおかしいような気はしてたんだけど……
頼られたらつい「私がなんとかしなくっちゃ」って……

使命感が判断を鈍らせることはよくあることだよ。オレオレ詐欺なんかもそうだね。
「お母さんにしか頼めない」と言われて必死になると、自分でも「おかしいな」と思っていても「子どものためだから!」って気持ちが勝ってしまって、なかなか思いとどまることができないんだって。


おかしいと思ったら、一度立ち止まって冷静になってみないとダメなんだね。

誰かに話すっていうのも大事なんだ。冷静な誰かが「それはおかしい」って言ってくれれば、
「やっぱりそうかな」って思いとどまることができるからね。

人の意見を聞き入れるという勇気も必要だけど。


私も「おかしいな」って思った時点で、お兄ちゃんに話を聞いてもらえばよかったかな。


それで、使命感に疑問を持ったフキコさんは、その毛糸とチョコレートをこれからどうするんだ?


その子の家に行って、一緒に作ろうかな! 
やっぱり本人が作ったものをあげた方が気持ちが伝わるもんね。


そうだね! 
ついでにお父さんの分も作ってあげなよ。


あー、娘としての使命感はすっかり忘れてたわー。





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